われわれの顧客は誰か?

  • 2010.05.02 Sunday
  • 04:14


「企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。事業は、社名や定款や設立趣意書によってではなく、顧客が財やサービスを購入することにより満足させようとする欲求によって定義される。顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である。したがって、「われわれの事業は何か」との問いは、企業を外部すなわち顧客と市場の観点から見て、初めて答えることができる」

以上、ピーター・F・ドラッカーの『マネジメント』より。

さて以前書いたとおり「顧客とは誰か?」という問題について、今回は考えてみたい。ちょっと疲れるね。いや、でも言葉にすることって重要だ。それが仮の結論にせよ、結論は結論であり、そこに自分の到達点と限界点が見出される。


顧客とは誰か? という問いには簡単に答えが出るようにも思える。それは観客席に座っている、お客様、だ。それは一方で間違いようのない事実ではあるが、はたして「お客様」だけが顧客だろうか。

ドラッカーは先の文章の後でこうも述べている。

「ほとんどの事業が少なくとも二種類の顧客を持つ。カーペット産業は建築業者、住宅購入者という二種類の顧客を持つ。この両者に購入してもらわなければならない。
 生活用品のメーカーは主婦、小売店という二種類の顧客を持つ。主婦に買う気を起こさせても、店が品を置いてくれなければ何にもならない。店が目につくよう陳列しても、主婦が買ってくれなければ何にもならない。」


この文章を舞台創作の現場にあてはめて言えばこんな風にでもなるだろうか。

「劇団は二種類の顧客を持つ。いわゆる観客席に座る『お客様』と、舞台美術家、音響・照明・場合によっては制作スタッフ、そして俳優である。いくら『お客様』が面白がってもそれら『上演者サイド』の人間が上演する価値を感じなければ何にもならない。『上演者サイドの人間』がいくら面白がっても『お客様』が楽しめない舞台では何にもならない」

我ながらこの言いかえはちょっと苦しい。というのも上の文章では劇団と俳優を別の主体として扱っているが、劇団とは大抵の場合俳優を含めて存在しているからだ。

ここではっきりしておかなくてはいけないのは、上演者サイド=劇団ではないということだ。
たとえば、ひょっとこ乱舞は劇団の公演を打つために舞台美術制作会社や照明会社など外部の「組織」に仕事を委託している。全スタッフをその内部に含んでいる劇団も日本には存在するが、われわれはそうではない。

つまり、観客席と舞台の間に一本の線が引かれていて、その線を挟んで「企業」と「顧客」が存在する、という図式では現実の舞台創作の現場を説明できない、ということだ。言いかえれば、上演者サイドと観客席の双方に「顧客」を見出すことができる、ということだ。

だとすれば「顧客の欲求」という言葉を単に『お客様』の欲求、と解釈しただけでは事業を設定することはできない。

さあややこしくなってきた。「顧客」は観客席に座るお客様だけではなく上演者サイドにも存在する。改めて、われわれの顧客とは誰だろうか?

ここで引用部分をもう一度思い出してみよう。

「われわれの事業は何か」との問いは、企業を外部すなわち顧客と市場の観点から見て、初めて答えることができる。

と、あった。「外部すなわち顧客」の一文を見逃してはならない。ドラッカーによればあくまでも顧客とは組織の外部に見出されなければいけない存在である。当然ながら、劇団の内部も外部もみんな顧客と言ってしまったのでは、問題は何も進んだことにならない。問題は少し入り組んでいる。

ここで『お客様』の視点に立って舞台創作を眺めてみよう。ある演劇公演を観に行ったとき、そこで『お客様』は作品に出会う。俳優や脚本はもちろん、照明や舞台美術、劇場の清掃状況や制作スタッフの態度も含めて『お客様』は一つの作品と出会うことになる。その作品を提供する人々の総体を指して『お客様』が見出す集団、それを今、「上演者サイド」と呼ぶことにしよう。

「上演者サイド」はほとんどの場合、複数の組織で構成されている。劇団やプロデュース団体をはじめとして、舞台美術制作会社や照明会社、劇場、などさまざまな「組織」が集まって「上演者サイド」を形成している。劇団はその中の一つである。

劇団にとっての顧客とは、一つには『お客様』であり、もう一つには、「劇団以外の上演者サイドの組織」ということが出来る。

どうも議論がこんがらがってきたのを感じる。ここで整理しなければいけないのは、劇団にとって俳優は顧客であるか? という問題だろう。本日はこのぐらいで。
コメント
はじめまして。ひょっとこ乱舞はとても好きな劇団です。

ブログ初めて読みました。
ちょっと思ったことがありますので、書きます。

まず、ドラッカーの言いなりになって(笑)、顧客は2人いるとなぜとらえなくてはならないのか疑問です。
例えば、どんな商品でも問屋さんが仕入れてくれないと小売店に商品が流れない。さらに、小売店が仕入れてくれなければ、消費者のもとに流れていかない。だから、顧客の1人に流通業がいると考えられるわけです。
ですから、一般消費財を作っているメーカーの多くは、スーパーなどに積極的にアプローチして棚を確保しているわけです。
そこに棚を確保するためには、メーカーからのプッシュも必要ですが、消費者側から「それがほしい」という引き合いがないといけません。
だから、メーカーは、消費者に自社の商品の良さをアピールし、購買意欲をかきたてるのです。しかし、メーカーは直販でない限り、直に消費者に接することがないので、メーカーの代わりに販売機能を発揮してくれる流通業が大切であり、ここも顧客となるわけです。

ここで何が問題かと言えば、劇団は製造業(メーカー)ではないのです。サービス業でしょう。劇団が提供する商品は、サービスの特性をすべて備えています(例えば、提供と消費が一緒に行われる、保管がきかないなどです)。

で、長くなりましたが、「劇団にとって俳優(あるいはスタッフ)は顧客であるか」ということは、サービス業におけるマーケティングの考え方の中で、すでに示されています。

企業・顧客・サービスエンカウンター(顧客に接する接客要員)を。それぞれを頂点とする三角形とすると、企業・顧客の関係は「エクスターナルマーケティング」、顧客・サービスエンカウンターの関係は「インタラクティブマーケティング」、そして、企業・サービスエンカウンターの関係は「インターナルマーケティング」としてとらえられています。
つまり、サービスエンカウンターとは、劇団のスタッフ(劇団にとって外部のスタッフであってもサービスの提供側なので、「外」ではなく「内」)や俳優さんということだと思うのです。
ですから、劇団は、インターナルマーケティングとして、サービスエンカウンター(俳優&スタッフ)の技術向上と満足度向上に努めなければならないということだと思うのです。

彼らの満足度が低ければ、当然、顧客(観客)へのサービス度合いも低くなり、劇団にとって良い結果とならないと思うのです。

結果、2つの顧客と同じようですが、メーカーのマーケティングとは視点が違いますので、大本がずれると大きく変わってくのではないかと思い、つい書き込みました。

すみません、長々と。
では、次回の公演楽しみにしています。
  • AKIRA
  • 2010/05/04 9:30 AM
AKIRAさんコメントありがとうございました。ホントに経営学に関してはまるで知識のない人間が書いているのでこういうコメがつくのはとてもありがたいです。

劇団が製造業ではなくサービス業、というご指摘に、なるほど、と目からうろこでした。もちろんチケットの受発注や受付の対応などはサービスだと今までも認識していたのですが、「作品そのものがサービスである」という考えは持っていませんでした。

また考えて続きを書こうと思います。ありがとうございました。
  • 広田
  • 2010/05/04 6:00 PM
お久しぶりです。この前、三軒茶屋の芝居を見に行って以来かも?劇団の創立メンバーだったSです。

このカテゴリの記事の中で「創立時のメンバーは姿を消した」と言及され、変な話ですが、ちょっと嬉しくなりました。大学のサークルであなたと出会い、少なからず影響を受けたSです。

いいですね。こういう考察。

組織にまつわる考察、とりわけ、組織の目的に関する考察は、組織を作った当事者には永遠につきまとうことになる悩みの種だと思います。

形は違えど「組織」を作った当事者として、私もあなたと同じように悩み続けています。

4年前に私を含めたった2名ではじまった会社はお気楽な「集団」に近いものでした。構成人員が増えるにつけ「組織」に変わり、つい最近「株式会社」という法人格になりました。

それに比例するかように、クダンの悩みは大きくなりました。

このカテゴリは全部読んでいきます。今の自分にとっても、非常に興味深い考察です。

がんばって書き続けてください。応援します。

そして、またあなたと飲みにでもいければとひそかに思っています。

次回の芝居も見に行きますね。あなたの演劇に対する情熱と頑張りがどこか私の支えになっています。

ある意味で、私は純粋な観客でも、上演者でもない、顧客みたいなものです。

長々とコメントしましたが、

「私も同じような状況にある者としてあなたに共感しています。」

それを伝えたかっただけです。

それではまた。
  • 「姿を消した」劇団創立メンバーS
  • 2010/05/08 10:12 PM
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