はっきり言って我ながら読みづらい、と思います。すませんです。ブログの文字の装飾がよくわかってないのです。勘弁したってください。
本番では、登場人物が二人である以下のテキストを、6人の俳優によってリーディングした。
前提
音響・照明の効果は最小限に控える。
身体に関してはあくまでも不動の動を見せるのであって、ムーブメントを見せるわけではない。
本の形式に関しては台本の紙をそれぞれが持っている稽古場の状態でいいのかもしれない。極力、本番用に整えられたのではない状態を準備する必要があるのではないだろうか? 家での普段着、とか。
場面1 モノローグ カズヤ
カズヤ ……だからその日もいつもどおりっていうか、俺は水を見てまして、
声 水?
カズヤ はい。あの、俺が働いてたのは水質を管理するなんか、センターみたいなとこで、俺はその水の状態を監視する仕事をしてたんですけど、
声 ふーん。
カズヤ ま・でも、水を見てるっつっても水槽の前に座ってたりとかじゃなくて、沢山あの貯水槽があるんですけど、それの状態をこう、一編にモニタリングできる場所があって、そこに待機してるんですよ。で、ちっこいテレビみたいのが沢山並んでるの見てて。
声 ふふーん。
カズヤ でまあ、何も起きなければキホン何もしないで良くて、たまに警報機ていうかブザーがなったら、まあ、いろいろ水質を良くするみたいな処置をしたり、あとは、「ヤバイですよォ」てのを担当の人に伝えたりっていう、そういう仕事で、はい、そういうのをやってました。
声 だけどそれもその日でおしまい?
カズヤ まあ、なんていうかそうですね、「おしまい」。
声 うんうんうん。
カズヤ だからあれですね、なんかあの、俺の人生の主役は俺なんだぞ、みたいな。そんな風に思ってたとこがあって、でも、それは違った、ていう。
声 はいはい
カズヤ ま・当たり前っちゃ当たり前なんですけど世界は別に俺を中心にして回っているわけじゃないし、てか、そんなのわかりきってるし、ていうつもりだったんですけど、そうそう、そうなんですよね。なんか世の中っていうのは世の中の方の都合とかタイミングで勝手に進んでいくんだよなぁ、っていう、そういうもんだと思ってたんですけど、そんぐらいのことは納得してるつもりだったんですけど、俺も。
声 うんうん
カズヤ けどまあ、いつの間にかっていうんでもないですけど、やっぱりなんかどっかで思いこんじゃってたというか。何かいろいろとこう、ある程度自分でコントロールできるんじゃないかっていう、なんか人生を? 自分でコントロールできるっていう誤解をしちゃってて。
声 はいはい
カズヤ だから実際、ホント俺とはなんの関係もないところで、こんな中途半端な感じで「俺」ていう存在がなくなってしまう、てことがやっぱり。うーん、不意打ちだったんですね、めっちゃくちゃ。だからまあ、想像力が追いつかないというか、なんか、うん。追いつかないっすねえ、全然。
場面2 ダイアローグ スカイプ 安否確認は同窓会のように
何人かの俳優が椅子に座っている。
それぞれ台本を手にしている。
ミヤコ あ、もしもし? ナイトウ君? あたしあたし、ミヤコです。て、え、見えてる?
内藤 いや、見えてないすけど。てか、重くなるんで映像つけてないんですよ。
ミヤコ あ、そう。あ、そういうもの?
内藤 まあ。ていうか、マジ久しぶりっすね(笑)
ミヤコ ね。久しぶり(笑)
内藤 うあー、元気にしてんすか?
ミヤコ 元気元気。てか、ナイトウ君は元気にやってんの?
内藤 まあ、はい。怪我とかはしてないですけど。
ミヤコ よかったね。あ、なんかごめん、わざわざ電話もらっちゃって。て、これ電話なの? スカイプって電話?
内藤 まあ、大丈夫ですよタダなんで。
ミヤコ あ、そう? へー、そうなんだ。
内藤 なんかこっちこそすみません、わざわざアカウント作ってもらっちゃって……。
ミヤコ ああ、あんまよく分かんなかったら友達(彼氏)にしてもらって、
内藤 ああ、そうすか。
ミヤコ うん。え、今、内藤くん、どこいんの?
内藤 韓国。
ミヤコ カンコク? て、え、カンコクって韓国?
内藤 そうですそうです。いや、韓国は韓国じゃないですかそんな。今、ちょっとソウル来てまして、
ミヤコ ええー、なんでなんで? てかだから携帯つながんなかったのか。て、え、なにやってんの韓国で?
内藤 や、まあ、いろいろなんか仕事したり、あのほら、自分ちょっと親戚がこっちにいますんで、
ミヤコ ああ。
内藤 まあ、観光とかもしてるんですけど、
ミヤコ えー、そうなんだ、え、え、いつからそっちいんの?
内藤 半月前ぐらい……。
ミヤコ あ、そうなんだ。え、じゃあれだ、地震の時は全然もう、
内藤 そうなんすよ。もう地震ん時はこっちだったんで、全然なんか蚊帳の外っていう感じで、
ミヤコ わあ、なんかじゃあ、よかったかもね、それはそれで。安全ていうか、ね、
内藤 ま・ある意味そうですね。
ミヤコ え・じゃなに地震のニュースとか全然あれ? わかんないっていうか、
内藤 や、でも一応ネットはつながってますし、なるべく情報は入るようにしてるんで……。
ミヤコ そっかそっか。だよね、そりゃ。
内藤 ていうかミヤコさん大丈夫なんですか、家族とかそういう……、
ミヤコ うん。あたしは全然、大丈夫なんだけど。
内藤 はい……。
ミヤコ あ、でもびっくりした。そっか海外か。そういう場合もあるか。
内藤 なんかあったんですか、急に(連絡してきたりして)?
ミヤコ ああ、いや、別にどうっていうこともないんだけど、いや地震とかもあったし、大変ですねみたいな、内藤くんどうしてんのかな、っていうのもあったし、
内藤 はぁ……(そんな程度のことでわざわざ連絡してきたのかな?)
ミヤコ とゆーかあのさ、内藤くんにちょっと聞きたいことがあって、ていうあの、そういうのなんだけどさ、
内藤 はい
ミヤコ あの、今、カズヤさんてどうしてるかわかる?
内藤 や……、カズヤさん、はちょっとわかんないですけど……。
ミヤコ え、連絡をとってみようとかそういうことはした?
内藤 この地震のあとでってことですよね?
ミヤコ そうそう。取ってない?
内藤 いや、取ってないすね。ていうか俺もう、カズヤさんと何年も連絡とかとってないんで、
ミヤコ そうなんだ。
内藤 はい。え、ミヤコさんはまだなんか、続いてるんですか?
ミヤコ や、全然続いてはないんだけど別に。
内藤 ですよね。
ミヤコ あ、いや、別れてるよ全然、そういう意味では、
内藤 なんか俺もそう聞いてから、
ミヤコ うっそ、え、誰に聞いたの?
内藤 え、別にやっちゃんとか……、
ミヤコ あー、やっちゃんね。てか、元気にしてんのかね、やっちゃん。
内藤 あいつは、はい。相変わらずっすよ。こないだも二人で焼肉食い行って
ミヤコ へー、そうなんだそうなんだ。
内藤 すげえ太ってますよあいつ。
ミヤコ えー、ぷくぷくだ。
内藤 もう、ブクブクっす。
ミヤコ て、えーと、なんだっけあの、だからそう、あたしも別にカズヤさんと連絡とかとってたわけじゃないんだけど、なんかでもカズヤさん宮城じゃん、とか思って。
内藤 あー、そうでしたっけ?
ミヤコ 覚えてない? ホラ、なんか正月明けかなんかでお店いったときにさ、カズヤさんが実家のお土産とかなんとかいって牛タン買ってきてくれて、
内藤 ああ、はいはいはい。なんかありましたね牛タン。「すげえいい牛だ」とか言って、
ミヤコ そうそう、いい牛だ、いい牛。
内藤 そっか宮城でしたっけ、ああ……。て、え、今、カズヤさんて実家帰ってるんでしたっけ?
ミヤコ え、東京いんの? 全然知らないんだけど、
内藤 いや、別にあの、俺も何も知らないんですけど、
ミヤコ なんだよ。
内藤 すみません、なんか、あー、そっか、帰ったきりでしたっけ?
ミヤコ じゃないの、多分。え、やっちゃんとかとさ、そういうカズヤさんの話とかになんないの?
内藤 や、全然……。
ミヤコ なんだよモォ。
内藤 すみません。あの、え、でも俺らがお店いたのってなんだかんだもう……、え、何年前だ、3年とかじゃないですか、もう。
ミヤコ いやいや3年どこじゃないでしょ。もう5年前とかだよ普通に。
内藤 え、マジすか? ええ(考えてみる)?
ミヤコ 全然いってるでしょ。だってホラ、ドイツのワールドカップがどうとかいってたんだから、
内藤 あーそうか。5年、とかですか。わー、なんか、思い出した。すげえカズヤさん熱くなってましたよねあの、ジダンが。頭突きがどうのこうのとかっつって、
ミヤコ ジダン? て、ああ……。
内藤 あのホラ、サッカーのハゲのあの、すっげえハゲのあの、
ミヤコ わかるわかる、
内藤 しばらくやってましたもんね、ジダンの真似とかってつって、頭突きばっかして、
ミヤコ やってたやってた、
内藤 流行っちゃって、カズヤさん中で、
ミヤコ あたしもすっごいされたもん頭突き。てか内藤くんとよくサッカーの話してたよね、
内藤 ま、でも、ぶっちゃけ俺もあんまわかってないんで、合わせてただけですけど、
ミヤコ あ、そうなの?
内藤 マニアック過ぎるんですよあの人。なんか、よくわかんないサッカー雑誌とかいっつも熟読してて、
ミヤコ マテラッツィだ! マテラッツィ!
内藤 え、え?
ミヤコ や、なんかジダンに頭突きされた人? マテラッツィ。
内藤 なんなんすかそれ。
ミヤコ いや、あたしがいつもマテラッツィやらされてたから、
内藤 頭突きされるだけですよね?
ミヤコ そうなんだよ、ひどくないあの人、て、違う。サッカーの話はいいんだよ別に。
内藤 はいはい。
ミヤコ じゃなくてだからそうだ、カズヤさんが実家帰ってるんだったらこの、今回の地震とか、結構なんかあったのかなァ、とか思って、
内藤 どこでしたっけ、宮城の?
ミヤコ いや、わかんない。わかんないの内藤くん?
内藤 いや、んー、仙台ではない、みたいなこと言ってたような気ィするんですけど……なんか、んー……え、カズヤさん電話は変えてないんですよね、あのドコモから?
ミヤコ 多分ね。
内藤 なんすか多分て。
ミヤコ 一応、電話するとプルルルってはなるんだけど、
内藤 出ないんですか?
ミヤコ 出ない。出ないし……、あーでも内藤くんとかが連絡したら出るのかも。
内藤 え?
ミヤコ や、なんかあたしだから出ないだけかとかも思って、
内藤 それはないんじゃないですか、
ミヤコ と思うんだけどね、あたしも。でも、なんかメアドは変えたっぽいからメールは返ってきちゃうし、ていうか、新しいメアド知らねーし、みたいなこともあって、
内藤 はいはい。
ミヤコ そう、だからあれだよ多分、なんかほら、携帯のさ、会社を変えても番号は変わりませんみたいなあの……番号……あんじゃんなんか、番号なんとかっティみたいな、
内藤 適当っすね。や、わかりますけど、あれですよねあの、番号……なんとかっティ
ミヤコ マテラッティ、
内藤 違いますよ絶対。じゃああの、わかりましたよ。そしたら俺の方でもなんか、やっちゃんとかにもいろいろ聞いてみたりして、連絡とってみますんで、
ミヤコ やっちゃんならわかるかな?
内藤 聞いてみますんで。
ミヤコ うん。お願いしてもいい?
内藤 ハイ、大丈夫ですよ。
ミヤコ あー、なんか、よかった内藤くんに連絡して。ありがとうほんと。
内藤 でもあの、なんていうか、
ミヤコ ん、なに?
内藤 連絡ついたらどうするんですか?
ミヤコ どうって、何が?
内藤 や、それでカズヤさんと連絡ついたとして、なんていうか……、あー、ま・別にどうするとかないっすよね、それは。
ミヤコ うん。別にどうもしないけど。
内藤 ですよね。
ミヤコ うん。え、なんかしないとダメ?
内藤 てわけじゃないですけど。あ、全然ダメじゃないです。すみません。
ミヤコ なんかあれ、単なる自己満足だろって?
内藤 いや、そんなこと言ってないですけど、別に。
ミヤコ そりゃ別にねェ、カズヤさんになんかあったとして? じゃ・なんか助けが必要な感じだったとしてどうするかっていったら別になんにも考えてないし、何それ、とかは自分でも思ってるけどさ別に……
内藤 や、それはミヤコさんとカズヤさんの話だと思うんで、ちょっとわかんないんですけど。
ミヤコ わかんないよ、あたしだって。でもなんか、え、そりゃ別に今は全然、付き合ってるとかでもないし、なんか別にあたしも自衛隊とかじゃないしさ、
内藤 ん? 自衛隊?
ミヤコ いや、何も力にはなれないとは思うけど、別にそういう道路とか作れないし、
内藤 それは作んなくて大丈夫と思いますけど、
ミヤコ あたしは別に何もできないけどさ、だからってカズヤ君が今どうしてるとかそういうのが心配っていうのはそれは別に本当じゃん、だって心配なんだから実際、
内藤 すみませんなんか。
ミヤコ え、なんで謝るの? 別にそんな、謝るようなことじゃないと思うけど、
内藤 そうですよねあのォ……、なんていうか、まだ分かんないじゃないですか何も。そんな全然、何もないかもしんないですし。全然ね、大丈夫かもしれないわけでしょ、そんな。
ミヤコ ……。
内藤 や、俺も別にミヤコさんに言われなかったら普通になんもしてなかったと思うんで、それは別に、いいと思うんですけど、はい。あのー、とりあえずまあ、連絡取ってみますんで。
ミヤコ うん。
内藤 またなんかわかったら、すぐミヤコさんにも連絡入れますから、
ミヤコ うん。ありがとね。ホント。
内藤 いやいや、じゃああの、はい。また。
ミヤコ またねー。
場面3 モノローグ 内藤
内藤 そのあとすぐにやっちゃんにメールをしてみたんだけど、やっぱりというか、やっちゃんも全然カズヤさんのことは何もわかってなくて、ま・そうだよな、とも思ったんだけど、俺が韓国にいるっていうこともあいつはわかってたからなのか、やっちゃんの方が俄然やる気になってくれて、当時の店長なんかにも連絡をとってくれるっていう話になった。
ずっと前に別れたはずのミヤコさんがちゃんと今でもカズヤさんのことを心配してる、みたいな話がやっちゃん的にはヒットしたらしくて、「やっぱそういうつながりって貴重」みたいなことになって、あれこれ骨を折ってくれることになった。
やっちゃんは今、一人で海外旅行に行ったりするのが趣味なんだけど、それも元々はカズヤさんに『深夜特急』ていう、沢木耕太郎ていう人の書いた長い長い旅行記みたいな本を勧めてもらったことがきっかけだったらしくて、そういう意味では、カズヤさんはやっちゃんの人生を変えた人なんだそうだ。
俺とカズヤさんとはもう何年も会ってない。距離がでかい。というか、カズヤさんのことなんてミヤコさんに言われるまで実際忘れていたぐらいのレベルだったし、というかもっと言えばミヤコさんのことなんてメールが来たときに一瞬思い出せないぐらいのレベルだった。もちろんこの地震のあとでも連絡をとろうとかそんなことは一回も考えたことがなかったし、好きとか嫌いとか以前に、なんつったらいいのか、ただ、ただ、距離があって。カズヤさんとも当時は毎日つるんでて、いっつも一緒にいたのに、今はなんにもわからない。一番親しかった人とこそ、一番遠くなってしまう気がする。何故だかわからないけど、なんだかそういうことになってしまう。生きているのか、死んでいるのかもわからないぐらい、遠くになってしまう。
場面4 モノローグ ミヤコ
ミヤコ 震災があって、なんかテレビとかで津波の映像とかをいっぱい見て、でも全然現実感がわかなくて、「え、これって本当に今、現実に起きていることなの」って思って、最初の何日かは一生懸命にテレビばっかりを見て、ある時にぷつっと我慢できなくなって、そういうの全部、見るのをやめた。
周りで友達の女の子がわけもなくワンワン泣いてたり、それであたしもつられて泣いたりなんかして、実際のところ自分でも何に対して涙を流しているのか全然意味がわかんなくて、多分友達もそうなんだけど、これは、この涙は、なんかの言い訳みたいになっているのかなって、自分がこうやって涙を流してると、あたしはそういう冷たい人間じゃない、みたいな、あたしにとっても人ごとじゃありませんよ、みたいな、そういう言い訳みたいなことで泣いているのかなって、そうでもない、そうでもないはずなんだけど、一瞬、そう思ったら、ものすごく白けた気持ちになった。くだらない。と思った。
だけど、それでも、少なくとも何かの言い訳をしなくちゃいけない程度にはあたし自身もなんらかのダメージを受けているっていうか、自分に対してどうしたらいいかよくわかんない思い、みたいな、そういうものがあったのかもしれなくて、多分それは、ちょっとは本当の部分がある、と思ったらようやく少しだけ、ほっとした。
そん時に夕焼けがとってもきれいで、ああ、なんか見透かされたみたいだなって思ったんだけど、そうそう、見透かされたんだ。その日はなんだか巡りあわせというかで夕焼けを見ることになって、やっぱりあたしは夕焼けが好きで、それはとってもとってもきれいだった。くだらない。と思う。
被災した人がツイッターかなんかでつぶやいていたのを後で見て、ああ、それはそうかもしれない、て共感したのがあったんだけど、それは津波で町が流されてしまった沿岸部に沈んでいく太陽が、なんだか本当に何の遠慮もなくきれいで、とてもとても美しい夕焼けで、ああ、きれいだなー、って。その人は、そう思ったんだって。
どうして、そんな時まで、きれいとか汚いとか、そういう視点というか、価値観というか、判断力のようなものが死なずに残っていて、どうしてそういう力があるんだろうってあたしは思って、で、そのつぶやきを見てなんか良かったというか、そういう風にあたしが思ったのは、やっぱり自分に対してちょっと納得したかったというか、安心? そうかもしれない。安心したかったのかもしれない。被災した人にもそういう呑気な気持ちがあるんだなぁって、いや、呑気とかいったらホントに怒られてしまうかもしれないけど、そういうまだ、息のある人がガレキの下にいて、急いでなんとかしてあげなくちゃとか、そういう本当に大変で、苦しいというか、辛いというか、そういう時間を過ごしている最中でも、やっぱりきれいなものを見たら、人はきれいだなー、ってそういうため息みたいなものがどうしても出ちゃうわけで、くだらない、と思う。けど、結局、あたしは、多分、私たちは、そういう生き物なんじゃないかなって、そう思ったのでした。
カズヤ君がどうしているんだろう、っていうことを最初にふっと思い浮かべたのはその時。もう何年も前にカズヤくんとは別れていたし、そのあと全然新しい彼氏ができて、むしろその人とも別れて、さらにその次の彼氏と今、あたしは付き合っているんだけど、それぐらい昔の話なんだけど、まあでも5年も経っているんだからそれはある意味で当たり前のことだとは思うんだけど、それでも、あ、カズヤ君宮城じゃん、大丈夫かな、というか、イヤだなあ……、この津波とか、地震とかそういうのにカズヤ君が巻き込まれていたらイヤだなあ、って思って。
むしろその瞬間に、今までいかに自分がこの地震のことを人ごとだと思ってきたかって言うことがよくわかって、そういう自分の残酷さ、というにはあまりにも呑気な、馬鹿さ加減みたいなものにようやく気づいて、こんなに大変なことになっているのにまだ何もわかんないのか、あたしって、とか思って、ホントなんなんだろうって、だけど、でも、カズヤ君のことは、生きていて欲しい。どうか、生きていて欲しいってそう思っていて、それは嘘ではない。嘘ではない、ことに、させてほしい。
ここ何年かのカズヤ君のことは知らない。多分この地震がなかったら、これから先のカズヤ君のことも知らない。もしかしたらほとんど思い出すこともなかったかもしれない。
けど、急に何だかそういう思いに囚われた。元気にしているのかな。カズヤくん。いや、もうカズヤさん。なのか、とにかくなんだか元気にしているのかな。無事でやっているのかな、って。無事でいてくださいって、誰に対して祈っているのかわからないけれど、そういう祈りたいような気持ちがふつふつと湧き上がってきて、だけどもう、カズヤ君はいない。あたしの中にはいない。とっくの昔にいなくなっていたんだよ。
だって今、カズヤ君がどんなことを考えていて、なんの仕事をしているとかそんなことは全然なんもわかんないし、髪型とか、洋服とか、聞いている音楽とか、今、カズヤ君が、何をどう感じて生きているのか、変わってしまったものとか、変わっていないものとか、カズヤ君に関する何もかもに一切、何の興味も持たないで過ごしてきてしまった時間が私には確かに、あるから。
今だって私は勝手に私の想像の中でこしらえた、全く更新されていない、ちっとも最新版じゃない、カズヤ君の思い出を相手に、勝手に一人相撲なんかをして、そういう気持ちを盛り上げているだけ。それは、わかっているつもり。だけど、実際、盛り上がってしまうものは盛り上がってしまうわけだし、この盛り上がりみたいなものをどうするのがいいのか、本当に本当にわからなくなって頭を抱える。マンガみたいに、部屋で一人でベッドの上で、頭を抱える。文字通り頭を抱えこんで、おまんじゅうみたいに丸くなっている、あたし。……誰か!
場面5 ダイアローグ スカイプ再び
内藤 あ、もしもし? ミヤコさん? あの今、ちょっと大丈夫ですか? て、聞こえてますか、おーい?
ミヤコ あーはいはい、ごめん大丈夫、聞こえてます。
内藤 あのー、カズヤさんのことなんですけどあの、
ミヤコ うんうん
内藤 店長とかにいろいろやっちゃんが聞いてくれて、あの、一応なんていうか実家にも連絡がついたみたいなんですけど、あの、カズヤさんなんか、もう何年か前に結婚したそうでして、あの、俺も全然、なんの連絡ももらってなかったんですげえびっくりしたんですけど、なんか地元のほうで相手見つけたらしくて、そんでなんかお子さんとかもいるらしいんですけど、て、あ、なんか、大丈夫ですかミヤコさん?
ミヤコ 大丈夫大丈夫、それで?
内藤 であの、ちょっとまだよくわかんないみたいで。安否というか、そういうのはよくわかんないみたいで、
ミヤコ ……。
内藤 というかまあ、結論から言うとあの、俺がわかったことはそれで全部なんですけど、その、何もまだわからないっていうことらしくて、
間。
ミヤコ 帰ってきてない、ってこと?
内藤 はい。
間。
内藤 まだ、わかんないそうなんであの、
ミヤコ うん、わかった。ありがとう。
内藤 はい。
間。
ミヤコ 内藤くんに言ってもなんか、よく分かんない話なのかもしれないんだけどさ、
内藤 はい。
ミヤコ あの、いつかあたしも結婚とかをするとしてさ、今、付き合っている人かもしんないし、まあ、まだ全然、会ったことも無い人かもしんないんだけど、
内藤 はい。
ミヤコ 別に結婚とかじゃなかったとしてもいいか。でもなんか、きっとあたしがこれから好きになる人ていうのは全員、カズヤさんに似ているところがある。……と、思う。……(笑)だからなんだっていう、あれじゃないんだけど、さ。
内藤 ……はい。